2002年5月31日(統一テーマ:『文献紹介』)
「三国志」の時代に関する史料 田中愛子
前回のテーマ「孫呉」の舞台・中国後漢末から三国時代。今回は、その後漢末から三国時代を研究する上で資料となる書籍のうち、比較的入手しやすいと思われるものを取り上げたいと思います。
『三国志』
最も代表的な資料は、陳寿著『三国志』であるといえるでしょう。後漢末から三国時代をについて述べたものであり、二十四正史の一つで、前四史の一つ。ちくま学芸文庫から、『正史 三国志』として、完訳も出ています。
基本資料となったのは、『魏書』、『魏略』、『呉書』、そして、陳寿自身の見聞であったといいます。陳寿の記述は、簡約を旨とするものであったため、裴松之が註を付け、補いとしています。
日本では、「三国志」といえば、羅貫中の『三国志演義』を指すことが多いですが、これはいうまでもなく『三国志演義』とは別物です。ちなみに、いわゆる「魏志倭人伝」も、『三国志』中にあり、『三国志』「東夷伝」がそれです。
『後漢書』
范曄著『後漢書』は、後漢王朝一代の歴史についての紀伝体の史書であり、これもまた、二十四正史の一つで、前四史の一つです。先行する後漢時代に関する史書を参考に、宋代に成立したものです。後漢末に関する記述には、『三国志』と重なる部分も多く(ex.「東夷伝」)、三国志にはない情報が『後漢書』に掲載されているということが多々あります。
手痛いのは、『後漢書』には、全訳がないことです。そのため、どうしても訳が見つからない時には漢文を読むことになってしまいます。なお、現在、岩波書店と汲古書院から、全訳の刊行が行われているそうです。
『晋書』
『晋書』は、新王朝の歴史を扱った紀伝体の史書で、二十四正史の一つです。晋王朝一代の歴史についての史書ではありますが、通常の本紀や列伝の他、載紀が設けられており、ここでは、五胡十六国の歴史が扱われています。唐の太宗の時代、勅によって、先行する晋代史を参考に完成されたものです。
従来の正史が個人の著述であったのに対し、これは勅撰であり、また、初めて複数人による分纂の方法が導入された正史でもあります。
ちなみに、魏の重臣であった司馬懿の伝は『三国志』にはなく、この『晋書』の中に、「紀」の形で収録されています。
『世説新語』
劉義慶著『世説新語』は、後漢末から宋初までくらいの、名士たちの逸話や人物批評などを集めたものです。「徳行編」「容止編」などの編からなり、各編には、その編の主題に従った短い逸話が収録されています。
当時流行していた「清談」の雰囲気、老荘的風潮をよく伝えているといいます。