2002年5月31日(統一テーマ:『文献紹介』)
後醍醐天皇に関する読書案内  NF


 後醍醐天皇に関する著作で現在入手可能な文庫・新書からとなると
「後醍醐天皇 森茂暁 中公新書」
あたりになるであろう。後醍醐の生きた時代背景や生い立ち、政治的な志向や彼の政権の目指すところや文化的側面、宗教政策について手短に述べたものである。

 その他、現在入手可能か否かや文庫・新書かどうかにかかわらず述べていけば、
(1)「帝王後醍醐 村松剛 中公文庫」
 後醍醐の生涯とその時代について実によく調べ上げている。本来がフランス史専門ということもあって同時期のヨーロッパとの比較もしており興味深い。南北朝研究の御大である佐藤進一が「この作者は勉強家」と賞賛したという。
(2)「建武政権 森茂暁 教育社歴史新書」
 後醍醐の政権について、その政策やその狙いについて追及したもの。
(3)「異形の王権 網野善彦 平凡社ライブラリー」
 後醍醐の時代を中心に「異形」な存在について絵巻などを中心に述べた上で、そうした「異形」の存在と後醍醐との関わりについて記している。
(4)「後醍醐天皇と建武政権 伊藤喜良 新日本出版社」
 後醍醐政権の推移や時代背景について簡潔にまとめたもの。
後醍醐の子供達について述べたものでは(5)「皇子たちの南北朝 森茂暁 中公新書」。南北合一後の後醍醐の子孫については(6)「闇の歴史、後南朝 森茂暁 角川選書」がよく纏まっており、(7)「後南朝史論集 後南朝史編纂会編 瀧川政次郎監修 原書房」もある。
(8)「足利尊氏 高柳光寿 春秋社」は尊氏の生涯について述べたものであるが、後醍醐を始め同時代の多くの人物や時代背景についても広く言及している。
(9)「日本の歴史9南北朝の動乱 佐藤進一 中公文庫」は南北朝時代の通史に関する名著として名高いが、分量が多く専門性も高くて初心者には難解というのが難点か。
(10)「吉野朝史 中村直勝 星野書店」は昭和初期という皇国史観全盛の時期に発刊され、南朝正統・尊氏逆賊を唱える時代の産物と言うべき存在である。しかしその中でも「鎌倉時代を以て中世の終とするならば、室町時代を以て近世の初頭と言はねばならぬかと思ふ。」「この吉野朝期に、中世は終りて近世は初まったと云ふ感が深い。」と述べ、更にこの時期を境に米穀経済から貨幣経済に本格的に移った事を幾度も強調している。加えて正成の出自・教養についての問題や「公家一統」が天皇専制を意味する事など現在にも通用する提言をしている。確かにこの書は皇国史観に正面から立ち向かったものではない。しかし歴史研究に逆風が吹くこの時期に、時流とぶつかるでもなく我が道を行き、可能な限りの実証を行い鋭く本質を突き言うべき事は言っている。日本史と言えば東大の独壇場のような感があるが、嘗ての京大にもこのような優れた学者がいたという事を我々京大生は知り誇りに思うべきではなかろうか。

こんな所であるが、南北朝関係の書物ははっきり言って絶版・品切の嵐というのが現状。
この中で僕が知っている限り現在入手可能なのは(3)(9)くらいかなぁ…。

後醍醐天皇…皇統譜によれば第96代天皇。在位1318〜39年。後宇多天皇の第2皇子、母は談天門院藤原忠子。この頃の皇室は後深草天皇を祖とする持明院統とその弟・亀山天皇を祖とする大覚寺統に分かれ争っていた。1318年、大覚寺統の家長である後宇多の主導により鎌倉幕府の仲介で兄・後二条天皇の皇子・邦良親王が成長するまでの繋ぎとして即位。21年に後宇多院政を廃して朝廷内での天皇親政を確立、公家社会の家格にとらわれず吉田定房・北畠親房・万里小路宣房や日野資朝・俊基らの人材を登用。親政機関である記録所を復活するなど政治の革新につとめ、武芸や学問の振興をはかる。延喜・天暦の治をスローガンに掲げ、天皇による専制を目標としていた。死後追贈される号を生前にみずから後醍醐と定めた程である。即位時の取り決めで自らの子孫に皇位を継承させることが出来ない事から、やがて仲介役として皇位の行方を左右していた鎌倉幕府の打倒を計画し24年正中の変・31年元弘の乱に失敗して隠岐に配流されたが、護良親王や楠木正成らの反幕勢力が健闘する中で脱出して伯耆船上山に入って討幕運動を指導。足利高氏・新田義貞らが幕府を滅ぼすと帰京して建武の新政を開始した。しかし、新政はあまりに急進的で武将や貴族の反発を買い大きな混乱をもたらし、しかも政府はその不満を押えるだけの充分な力を持っていなかったため35年に尊氏の離反によって崩壊。以後、義貞・正成・北畠顕家らの力を借りて戦ったが、36年尊氏と和睦し三種の神器を持明院統の光明天皇に譲渡(北朝)。しかし間もなく吉野に移って自らの皇位のみが正統と主張して朝廷(南朝)を開く。以後60年にわたり南北朝並立が続いた。後醍醐は戦況が思わしくない中で京都回復を夢見つつ吉野で崩御。強烈な個性の持ち主で、和歌や学問にも造詣が深く儀式・典礼に通じ「建武年中行事」「建武日中行事」などを著している。


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