2002年10月11日(持ち寄り発表:統一テーマ『古代ギリシア』)
重装歩兵密集陣  My


はじめに
 今回は古代ギリシアがテーマ。古代ギリシアを特徴づけるものは、なんといってもその共同体的な国家の形態であろう。 今回はこの共同体の軍事面での表れである重装歩兵密集陣を扱う。


<重装歩兵密集陣の歴史的背景>
 ミケーネ文明が前1200年頃に崩壊して以降、ギリシア社会は長きにわたって混乱を極め、文化は低迷、人口も減少する。政治分野でもそれまでの高度な中央集権国家組織が失われてしまったため、ギリシアは社会組織を初歩的な段階から再構築していかねばならなかった。そして前8世紀には都市国家共同体が成立する。
 前8世紀は植民やオリエントとの交流によって、ギリシア人の交易活動が活発化した時期でもあり、ギリシア社会は著しく経済を発展させていた。このことはギリシアの都市国家の発展に大きな影響を及ぼす。経済発展が金属の供給を増やしたため武器の価格が低下、小農民でも重装備で戦場に立ち国防の担い手となることが可能となった。そして重装兵となった小農民は前7世紀に密集戦法を編み出し、その威力は貴族の騎馬による決闘を駆逐、小農民が軍事の中核を占めるようになる。この結果、小農民は政治においても中心的な勢力となり、ギリシア都市国家は小農民共同体としての性格を確立する。そしてこれ以降、小農民中心の軍事組織と政治組織が互いを支え合い、ほとんど重装兵の突撃のみで行う戦争が慣習化していった。
 その後のより一層の経済発展の結果、前5世紀以降、都市国家が割拠するギリシアの社会体制は動揺を始める。ギリシアの経済的価値の増加はペルシア帝国の関心を呼んだ。発展著しい商業・交易から利益を得ようと、諸国家は広域の連携を育て、このことから強国に率いられた諸勢力の衝突が生じた。いわばこの時期のギリシア地域は、ペルシア帝国を含む巨大な規模の、長い覇権争いの舞台となったのである。
 様々な戦場、ありとあらゆる状況下で戦闘が行われ、貧民からなる軽装兵、富裕者の騎兵などこれまで軽視されていた部隊が活躍の場を得た。とりわけ海軍の活躍が重要で、軍船の漕ぎ手となった貧民がその地位を大いに高めていった。ペルシアとの接触・交流も重装兵以外の部隊の重要性をギリシア人に認識させていった。こうして重装兵以外の勢力が台頭していくが、それでもギリシアは重装兵の突撃に執着し続けていた。だが前4世紀の後半に入ると、混乱を続けたギリシアはマケドニアに征服されてしまう。そこでも重装兵は重要な戦力として活躍してはいたものの、それは様々な部隊からなる軍の一部としてであった。重装兵単独で戦場を支配した時代は、ここで完全な終わりを迎えたのである。


<重装歩兵の武装>
 重装歩兵は青銅製の兜、胸当てすね当てに身を包み、左腕に青銅張りの木盾を持って身を守った。武器は長槍で、槍を折ったり落としたりしたときの予備として短剣を持った。飛び道具は使用しない。これらの装備をあわせると重さ30キログラムにも上った。


<重装歩兵密集陣の戦い>
 重装歩兵が戦場を支配した時代の戦争は、農閑期である夏期に出撃から帰還までわずか数日というごく短期間に行われるのが原則であった。そのため兵站にはほとんど関心が払われなかった。
 戦闘は、重装兵が活動しやすい起伏のない平地を戦場にして行われた。起伏の多い土地で戦うことなど考えてはいなかった。さらに軽装歩兵や騎兵で戦闘することも考えていなかった。
 戦場において重装歩兵密集陣は通常は深さ8列程度の隊列を組み、笛の音に合わせて全軍一団となって前進し、側面攻撃をしたり一翼だけで攻撃をかけたりすることはほとんどなかった。ただし兵士たちは、無防備な右半身を隣の兵士の盾で守ろうとして、しだいに右へ寄っていくので、軍全体の動きは右へと引きずられた。そのため右翼に最精鋭をおいて、自軍の左翼が持ちこたえている間に敵左翼を撃破するというのが、通常の戦い方であった。
 重装兵の戦闘は恐怖心を無理に押さえ込んで敵に正面から突撃するというものであり、兵士の精神的消耗が激しく、長時間の戦闘はきわめて困難であった。そして恐怖心が暴発して恐慌に陥ることも多く、しばしば乱戦となった。
 戦闘における戦死者は勝利軍で全軍の5%、敗北軍で15%ほどであった。重装兵は強固な防具を装備しており通常の攻撃で傷を受けることはあまりなかった。もちろん顔面や鼠蹊部など防具に覆われていない部位に傷を受け、それが死因となることはあった。それに槍や剣を何度も突き入れれば鎧を貫くことも不可能ではなかった。だが最大の死因は、踏みにじられて複雑骨折することであった。古代の戦闘では、大半の戦死者は、倒れたところで軍勢の前進後退に巻き込まれ、踏みつけにされて生じたのである。


おわりに 
 なんか以前にも似たよーな内容を含むレジュメがあったが、新たに得た知識も付け加えたし、まあこんなもんで勘弁して。


参考資料
戦争の起源;アーサー・フェリル著 鈴木主税・石原正毅訳  河出書房新社
世界の歴史5ギリシアとローマ;桜井万里子・本村凌二著  中央公論社
アレクサンドロス大王の父;原随園著 新潮選書
トゥーキュディデース戦史;久保正彰訳 岩波文庫
WARFARE;Geoffrey Parkar,ed. Cambridge


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