2005年3月11日
エロゲーを中心とする恋愛ゲームの歴史に関するごく簡単なメモ  My


(「美少女ゲーム」という単語も存在しますが、恋愛や性交渉を扱ったゲームには、女性向けのものもあり、しかも中には男性同士の絡みを描くものもあるので、そのようなゲームの全てが美少女を描くことを目的とするとは言えません。そこで、とりあえずその手の色恋・性愛を扱ったゲームの総称として仮に恋愛ゲームとしておきます。なお、かなりいいかげんに手早くまとめたメモなので内容の信頼性は保障できません。)



エロゲーの誕生
 プレイヤーの性欲に働きかけることに力点を置いたゲーム、いわゆるエロゲーは1980年代のはじめにパソコンゲームとして誕生した。最初のエロゲーは『ナイトライフ』(光栄マイコンシステム 1982年)で、カレンダーに従い、その日のオススメの体位を表示するという代物であった。ちなみに、この頃には女体を描くには必須であろう曲線を表示できない型のパソコンも存在したが、そのようなパソコンにおいてすらエロゲーが作成されており、誕生間もないエロゲー文化の生命力の強さ、すなわち性的な娯楽に対する人間の執着の強さには感心させられる。
 なおこの頃は、光栄の他にもエニックス、日本ファルコム、アスキーといったエロゲー以外の分野で大成することになるメーカーの数々がエロゲー制作に精を出していた。
 最初期の傑作ソフトとしては『団地妻の誘惑』(光栄マイコンシステム 1983年)が挙げられる。これはゲーム性のあるエロゲーの始祖とされる。この他、光栄は幼女を手術して楽しむ『マイ・ロリータ』(1985年)という病的にグロテスクな作品も製作しておりこの時期大いに活躍している。
 なお初期の最重要作品としては『天使たちの午後』(JAST 1985年)がある。これはグラフィックの面で新時代を開拓し、アニメ調の絵を用いたエロゲーの草分けとなった。これまでの絵柄のほとんどはリアルな劇画調か過度に幼い傾向を持つものに二極分化していたが、以降エロゲーは通常アニメ調の絵で描かれることとなる。またこの作品は当時としてはストーリーにもかなり力を入れており、ストーリーとアニメ調の絵を商品価値の中核に据える現在の恋愛ゲームの元祖というべき存在であった。


エロゲーの確立期
 1980年後半には現在につながるメーカーおよび市場が形成される。光栄やエニックスのような後の大メーカーが撤退する一方、1987年のフェアリーテール(現F&C)や1988年のエルフ、1989年のアリスソフト(前身であるチャンピオンソフトは古くから様々なパソコンソフトを製作し、そこにはエロゲーも含まれていたが、エロゲーに特化した有力メーカーとしての実質的な誕生はこの頃。ただししばらくは低迷。)といった現在に続く老舗が成立。
 この時期の傑作としてはまず『カオスエンジェルス』(アスキー 1988年)がある。後の二大メーカーとなるエルフとアリスソフトにも影響を与えた傑作とされる。
 そして『ドラゴンナイト』(エルフ 1989年)によって、エロゲーにおけるストーリーの重要性が認識されることとなった。なおこの作品は絵の美しさでも高く評価されており、その総合的なできの良さから売り上げを伸ばし、市場を大いに拡大することになった。現在につながるエロゲー市場を創り上げた作品である。


ストーリー主導の時代の幕開け
 『同級生』(エルフ 1992年)は美しいグラフィックに巧み描写された恋愛物語、そしてその巧みなストーリーにプレイヤーを引き込む優れたゲームシステムによって、爆発的なヒットとなる。これまでのエロゲーは絵を見るためのゲームであったが、この作品の登場によってエロゲーは恋愛を絡めたストーリーを楽しむゲームへと進化する。エロゲーをストーリーによって主導する時代の幕開けである。


エロゲー市場の肥大の時代
 1996年から1997年にかけて『ビジュアルノベルシリーズ』(リーフ)が優れたストーリーで好評を博し大成功を収める。それまでのエロゲーはゲームの中に絵と物語を織り込んで作られており、ストーリー主導といっても、あくまでストーリーはゲームという枠内で語られるべきものであった。これに対しリーフのこの一連の作品は、ゲーム性を排除して、絵や音楽によって演出された物語を読み進めるだけという、紙芝居のような単純な形態を採用していた。そしてこのゲームではないゲームの成功は、エロゲーの発展にかつて無いほど大きな影響を与える。多大な労力を費やして複雑なゲームを作らずとも、ストーリーを絵や音楽、効果音で簡単に演出するだけで高評価を受けることができると判明した結果、多数のメーカーがこれに追随、また無数のメーカーが乱立参入するようになったのである。同時期に起こったウィンドウズ95の登場によるパソコンの一般家庭への普及、パソコン使用の難易度低下と相俟って、ここからエロゲー市場は爆発的に拡大する。
 ちなみにこの『ビジュアルノベルシリーズ』は、恋愛を絡めつつ、ほのぼのとした日常や切ない別れ、血湧き肉躍る伝奇活劇、成長物語など色々な要素を含む多様なストーリーを描いたが、中でも涙を誘う感動的なストーリーが好評を博し、その後のこの局面に特化したゲームの流行に繋がってゆく。
 ところで、このシリーズの最大のヒット作である『To Heart』(1997年)は、プレイヤーが居場所の伏せられたヒロインを探り当てなければストーリーが前進しない形態を採っており、単にストーリーを読み進めるだけの形を捨て、ゲーム性を回復しようとした作品であった。だがその一方でビジュアルノベルと銘打って販売されており、またゲーム性がストーリーを阻害するという悪影響しかもたらしていないため、エロゲーの「ビジュアルノベル化=紙芝居化」をかえって加速することになった。  1998年から2000年にかけては感動的なストーリーでプレイヤーの涙を誘うゲームが大流行する。代表的な作品は『Kanon』(key 1999年)である。
 2000年にはまた、TYPE−MOON制作の『月姫』が登場、一般の商業流通に乗らない同人ゲームでありながら、しだいに評価を高め翌年の大ヒットにつなげる。
 さらにまた2000年から2001年頃には、悲劇的なストーリーによる精神的な重圧を楽しむ傾向が一層強まっており、プレイヤーに鬱々とした気分を味わわせる重苦しい内容を持ったゲームが流行する。代表的な作品としては『君が望む永遠』(アージュ 2001年)が挙げられる。
 なおこの時期は、恋愛を絡めたストーリーを描くゲームが凄まじく流行する一方で、『SEEK』(PIL 1995年)『悪夢』(スタジオメビウス 1996年)の大ヒットに見られるように、性描写において女性への辱めや加虐を中心に描く系統のゲームも大いに流行した。『Natural』(フェアリーテール 1998年)のように恋愛と陵辱・虐待の両要素を並存させた作品も登場する。


エロゲー市場の停滞
 以後は新たな動きも多少は見られるが、市場全体をリードするような大流行作品に恵まれず、エロゲーの衰退が言われるようになる。ただし単に市場が成熟し、勢いを失って拡大が止まっただけではないだろうか。
 この頃の注目すべき動きとしては、2002年は『妻みぐい』に代表される一連の低価格ソフトをアリスソフトが発売したほか、夕方にアニメ放送するなど積極的にメディアミックスしたエルフの『らいむいろ戦奇譚』など、市場の拡大・活性化に向けた試みが見られる。
 2003年には3Dグラフィックでリアルに造形された水着美女と戯れる『セクシービーチ2』(イリュージョン)や、アニメ調に3D美少女を造形するとともにゲームとしても楽しめるものに仕上げた『セイクリッド・プルーム』(TEATIME)が、プレイに非常に高性能なパソコンを必要とするという障害にもかかわらず、かなりの好評を博する。前者はかなり好調な売れ行きを見せたし、後者はそれまでゲームとしての面白さやストーリー、キャラクターの魅力において見劣りしがちであった3Dエロゲーを、非3Dエロゲーと比べて遜色ない水準に高めている。この年を実質的な意味での3Dエロゲー元年と言って良いだろう。


一般向け恋愛ゲームについて
 エロゲー以外のゲームで異性との交流を中心的なテーマをして扱った最初期の作品としては、『プリンセスメーカー』(ガイナックス 1991年)や『卒業』(JHV 1992年)のような、少女と交流して教育・成長させるパソコンゲームが挙げられる。その後これらのゲームやエロゲーの『同級生』の影響を受け、家庭用ゲーム機用の一般向け恋愛ゲームとして『ときめきメモリアル』(コナミ 1994年)が登場、これにより家庭用ゲーム機の世界で、一時、恋愛ゲームが大きな流行となる。そして『ときめきメモリアル』の他にも、『トゥルーラブストーリー』(アスキー 1996年)、『サクラ大戦』(セガ 1996年)のような大ヒットシリーズが誕生することになった。ただしこの市場は短期間の内に衰退してしまう。1998年からは一般向け恋愛ゲーム市場は低迷を続け『ときめきメモリアル』と『サクラ大戦』両シリーズのような大メーカーによる例外的な大作を除いては、現在では家庭用ゲーム機の恋愛ゲーム市場はエロゲーの移植を中心に細々と生きるのみと言っても良い。そして両シリーズですら売り上げは著しい低下傾向にある。この様な中で『シスタープリンセス』(メディアワークス 2001年)は、12人いるヒロインの全てが主人公の妹であるという奇抜な設定で、消費者の関心を高めヒットにつなげている。
 なお一般向け恋愛ゲームの衰退の原因としては消費者が成長してエロゲーに流れた、単に消費者が飽きたなどが考えられる。


女性向け恋愛ゲームについて。
 家庭用ゲームを中心に女性向け恋愛ゲームの市場も存在する。古くは『アンジェリーク』(光栄 1994年)がある。その後『アンジェリーク』を中心に小規模ながら堅実な市場を形成していた女性向け恋愛ゲーム市場であったが、その後『ときめきメモリアル Girl’sSide』(コナミ 2002年)が低迷を始めた男性向けの本家作品を尻目に大いに好評を博し大ヒット、本家に迫る販売本数に達している。また最近では多くの作品が発売されるようになっており、かなり力を付けてきた印象がある。そして女性向け恋愛ゲームとしては初の18禁作品である『星の王女』(美蕾 2003年)もパソコンゲームとして発売されている。
 なお女性向けの恋愛ゲームとしては男性同士の絡みを描いたボーイズラブゲームと呼ばれる分野も1999年から存在、アリスソフトのようにボーイズラブゲーム制作のブランドを立ち上げるエロゲーメーカーもある。


現在のエロゲー系恋愛ゲーム市場の状況
 2004年は同人ゲームで圧倒的な高評価を得ていたTYPE−MOONが商業転向第一作である『Fate/stay night』、keyが『CLANNAD』(一般向けパソコンゲーム)、リーフ(アクアプラス)が『To Heart2』(一般向け家庭用ゲーム)を大ヒットさせた他、アリスソフトの『ランスY』、エルフの『下級生2』も両メーカーの看板作品である『ランス』シリーズ、『○級生』シリーズの最新作として、その名に恥じないヒット作となる。エロゲーおよびエロゲー周辺の恋愛ゲーム市場にとってそれなりに実りのある年であったと言えよう。ただしそれぞれ、過去の作品の続編であったりそうでないにしても過去の作品と作風が大差なく、またそれぞれ各ブランドの最高傑作となるまでの高評価を得たわけではなく、新たな流行を創り顧客を拡大させるような勢いはない。しかも大ヒット作が多く見られた一方、多くのメーカー(特に小規模のメーカー)が売り上げの低下に苦しんでいると言われ、一般向け恋愛ゲームの低迷を尻目に好調を続けていたエロゲー系恋愛ゲーム市場も最近はやや停滞気味であることは否定できない。
 ただエロゲーに関しては性欲という人間の基本的な欲求に結びついており、常に一定の需要が見込める。またエロゲーの主流はゲーム性を放棄してキャラクターやストーリーを商品価値の基礎に据えているため、プレイにおいて比較的少ない労力と時間で多くの刺激を得ることができ、一般のゲームと比べれば飽きられにくい。さらにもともと小規模の市場であり縮小する余地が大きくない。これらの点から言って、拡大発展期に過剰に膨らんだ市場やメーカー数が停滞によって適正な規模にまで縮小はするにしても、それがエロゲーの存在にとって壊滅的打撃となることはないと考えられる。
 この他の大きな動きとしては同人ゲームで『ひぐらしのなく頃に』(07th Expansion)が未完ながら大ヒットした。この作品は、登場人物の造形や配置を見ればエロゲー系恋愛ゲームと同じ土壌に生じた作品であることは間違いない。ただ直接性欲に働きかけるような場面を持たず、絵はストーリーを描くための記号として最低限の役割しか果たしておらず、登場する女性キャラクターの全てが恋愛描写を崩壊させかねない破綻した人格の持ち主である可能性すらある。そして、なによりこれは未完の作品である。恋愛ゲームと評価すべきか、単なるミステリー(ホラー?)ゲームと評価すべきか現段階ではよく分からない。今はまだ評価を控えたい。


主要参考資料
 美少女ゲームマニアックス1〜3  キルタイムコミュニケーション
 同人ゲームマニアックス  キルタイムコミュニケーション
 この美少女ゲームで萌えろ!  洋泉社
 美少女ソフト全カタログ’90→’94  笠倉出版社
 リトルナイトカーニバル http://homepage3.nifty.com/s-hazuki/index.html
  チャンピオンソフトの歴史(美少女ゲームの歴史)
 古い男の部屋 http://homepage2.nifty.com/furuiotoko/index.html
  工画堂作品を語る部屋
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