2014年7月25日
五山の送り火  ことり


 1.概要
・毎年8月16日に京都で行われる、祖先の霊をあの世へ送る仏教行事
・祇園祭、葵祭、時代祭と並んで京の四大行事と称される
・発祥年代は定かではないが、室町時代頃と推測される
・五山というように、現在では5か所に点火されるが、明治時代に廃絶した送り火もある
・点火時刻は午後8時ごろに東から順に点火される

 2.五山の基礎データ
点火時刻 場所 火床の数 薪の数
大文字 20時 左京区浄土寺の大文字 75 600
松ヶ崎妙法 20時10分 左京区松ヶ崎の西山(妙)と東山(法) 妙:103,法:63 400
舟形万灯篭 20時15分 北区西賀茂の船山 79 400
左大文字 20時15分 北区大北山の大北山 53 350
鳥居型松明 20時20分 右京区嵯峨鳥居本の曼荼羅山 108 108


 3.送り火の意味
・一般的に送り火とは盆(盂蘭盆)の翌日に行われる仏教的行事
・京都が最も大規模だが京都以外でも行われている(大阪府池田市、高知県四万十市など←四万十市は都落ちした貴族が住んでた)
・盆にこの世に来た先祖や死者の霊をあの世に送り返す意味がある
・本来、普遍的にみられる習俗として、盆に先祖を迎えるときに家の前で松明を焚き(迎え火)、送る時も同様(送り火)の習俗が普遍的にみられる
・通説によれば、盆の翌日に松明の火を空に投げ上げて虚空を行く霊を見送るという風習が京都周辺にあり、五山の送り火は、これが山に点火されてそこに留ったものであるといわれる
・江戸時代に山の送り火とならんで平地でも、その風習が行われていたようである(江戸時代の絵図に描かれている)
・京都市北部で現在も行われている松上げ行事も、おそらくこの風習と関係があるものとおもわれる

 4.送り火の起源
・結論からいうと、五山送り火の起源は諸説あり不明と言わざるをえない
・伝説的には弘法大師空海が創始したとされるが、史実性は非常に低い
・公的行事ではなく民衆の習俗だったため、公的記録が非常に少ない
・文献での初出は江戸時代初期(1603年)の『慶長日件録』
・江戸時代初期の文献の時点で既に誰が創始したかははっきりしていない状態
・江戸時代の主な諸文献においても、大文字の創始者は、弘法大師、青蓮院門跡、近衛信尹、横川和尚、足利義政など、定まらない
・そもそも、為政者や有名な僧侶等が創始したのであればその旨が何らかの文献記録に残るはずであるが、そういったものは残っていない
・一般的に、庶民に仏教が浸透したのは中世、室町時代頃である
・以上のことから、五山の送り火は、諸説あり不明だが、為政者や有名な僧侶等が創始したというよりはむしろ民衆の間でおそらく室町時代頃に自然発生的に始まったと考えられる
・ただ、大文字の真正面は足利家と非常にゆかりが深く室町時代に権勢を誇った相国寺の方向を向いていることから、室町幕府や相国寺の横川和尚と何らかの関連性はあったと思われる(なお、大文字がある浄土寺地区(浄土寺村)には足利家が建てた銀閣寺が存在する)

 5.大文字はなぜ「大」なのか
・これも諸説あり不明と言わざるを得ない
・魔よけの意味がある五芒星をかたどったものという説
・仏教でいう四大(地・火・風・水の四大元素)の意味という説
・その他諸説あるが、何らかの呪術的意味が込められていることは確かであろう

 6.過去に存在した送り火
・現在の京都の送り火は上記の5か所であるが、過去には以下の送り火が存在した
・廃絶時期はおそらく明治初期
・左京区市原野「い」
・右京区鳴滝「一」
・西京区松尾「竹の先に鈴」
・右京区北嵯峨「蛇」
・右京区嵯峨観空寺「長刀」

 7.送り火にまつわるエピソード
・琵琶湖疏水完成式典の夜に臨時で灯された
・日清戦争終戦の際に「祝平和」の文字が大文字山に灯された
・500年以上に亘って連綿と続いてきた送り火であるが、太平洋戦争(大東亜戦争)が激化すると灯火管制が敷かれたため、1943年と1944年には火を焚く代わりに小学生が白いシャツを着て人文字で大の字を描き英霊を送った
・21世紀最後の夜である2000年12月31日には五山すべてで点火された
・2003年9月13日の夜には、リーグ優勝目前の阪神タイガースファンのおよそ25人が大文字山に登り、懐中電灯で阪神のHTマークを照らし出した騒ぎがあり、これについては地元などから抗議や批判が殺到した
・2011年には、薪に岩手県陸前高田市の松を使う計画があったが、放射能汚染を心配する声が出たため断念すると、今度は非難が殺到し、中止の決定は覆したが、結局松から放射性セシウムが検出され、結局被災地の松を用いて送り火を行うことはできず、残念な結果になってしまった

 8.参考資料
・岩田英彬『京の大文字ものがたり』松籟社、1990年
・五山の送り火 京都市観光協会 http://www.kyokanko.or.jp/okuribi/ 最終閲覧2014年6月23日
・京都散歩ナビ http://kyoto-sampo.jp/navi/gozan_okuribi.html 同6月23日
 


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